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ウイルスとは

ここでは最低限のウイルスについての知識を調べたことを書きます。COVID-19が猛威を奮っている今日この頃ですが、やはり、敵の正体をまずは知っておこうというわけです。

ちなみに、病気の名前はCOVID-19新型コロナウイルス感染症武漢肺炎等々と呼ばれ、ウイルスの名前がSARS-CoV-2新型コロナウイルスと呼ばれたりしています。ただ新型コロナは病名にもウイルス名にも使われていてちょっと混乱するかもしれません。

ウイルス名は新型コロナウイルスで統一します。

今回のポイント

  1. ウイルスは人間にとって、細菌同様、感染症として昔から対峙してきた。
  2. ウイルスは細菌に比べて、かなり小さい。
  3. ウイルスは生物に似ている点はあるが、基本的には物質である(だから「菌」とか「ばい菌」とか言ってはいけないし、ウイルスは「死ぬ」こともない—不活性にはなる)。
  4. ウイルスは細菌ではないので、抗生物質は効かない。
  5. ウイルスはエンベロープを持つものと持たないものがあり、新型コロナウイルスはエンベロープを持っている。
  6. ウイルスは細胞分裂で増えるわけではなく、増殖速度は極めて速い。

ウイルスと人間の接点

有史以来、人類を悩ませてきました天然痘はウイルス感染症です。天然痘以外にウイルス感染症は「インフルエンザ」「通常の季節性の風邪」「狂犬病」「ノロウイルス」「風疹」「はしか」・・・等々沢山の種類があります(細菌による感染症も「ペスト」「ハンセン病」「コレラ」「チフス」等々、やはりたくさんあります・涙)。

例えば、天然痘はかつてアジア、アフリカ、ヨーロッパにおいて、患者の25~50%を死に至らしめる恐ろしい病として人類を苦しめてきました。

スペイン人等の流入で南北アメリカ大陸には2000万人の先住民がいましたが、その後の200年間で人口が100万人に激減したそうです。その原因の一翼を天然痘が担っていました。また、日本では、戦国時代は5年に1度、江戸時代に入っても30年に1度のペースで流行が起こっていたものと考えられていて、やはり恐れられていました。

こんな天然痘は地球上から消えました。それは、1796年イギリスの医師ジェンナーが初めて牛痘苗による種痘を実施し成功したので、人が天然痘に感染しなくなる技術が生まれたからです(人類初めてのワクチン!)。日本でも1830年人痘種痘ではあったが大村藩で初めて行われ、1849年には牛痘苗による種痘に初めて成功しています。

ただ、この病気がウイルスが原因の病気であることは、当然、当時は知りません。なんせ後述するようにウイルスは顕微鏡でも見ることができないもので、科学的に「存在する」という証明が難しいからです。

間接的には、ウイルスの存在は1898年ディミトリ・イワノフスキーによって、細菌よりずっと小さい病原体の存在を突き止めました。この間接的というのはどういう意味でしょうか。

当時、細菌の研究に使われていた陶器製の濾過器は細菌を通さないので、濾過した液体には病原体はいないはずです。そこでイワノフスキーはタバコモザイク病の「病原菌」をそのような濾過器で濾過し、陶板上に残ったはずの細菌を顕微鏡で観察しましたが、細菌は発見できませんでした。しかも、濾過した液体をタバコ草に付けるとモザイク病になりました。病原菌が濾過した液体にすり抜けたということになります。彼はこれを「濾過性病原体」と名付けました(同じ年にほぼ同じ手法でフリードリッヒ・レフラーらによって、ウシの間で急速に広がる口蹄疫が「濾過性病原体」であると明らかにしています)。

つまり、状況証拠から何かしら小さな病原体があるはずだと言うことになったわけです(ただし、鉛の中毒症状のような他の物質という選択肢もあったはずですが、当時はコッホ以来の「病原体=細菌」と考えれていたので、その選択肢はなかったのでしょう)。

そして、ようやく1935年電子顕微鏡でウェンデル・スタンレー(後にノーベル賞受賞)がウイルスの撮影に成功しました。これはタバコモザイクウイルスの結晶化に成功したからです。まるで化学物質(例えば塩の結晶とか氷の結晶とか)のように結晶化するという当時の科学者に衝撃を与えたに違いありません。しかも、結晶になってもウイルスの働きは失われなかった!

最近ではウイルスを薄く輪切りにして、電子顕微鏡で観察するようなことも行われており、相当ウイルス学は進歩しているように、筆者は感じています(私が学んだ40年前近くの学生時代とは大きな違いです)が、これもここ数十年の科学の進歩によるものです。

そもそもウイルスとは

ウイルスは基本的には生物じゃありません。この基本というのは、生物学の多くの学者は生物じゃないと定義しているからです。別の言い方をすれば教科書的にはということになります。もちろん、そのことに異論を持っている学者もいますが、ここでは触れません。

ではなぜコロナウイルスが生物じゃないかを簡単にいうと、

  • 細菌から植物、動物でも生物はみんな細胞を包んでいる、いわば細胞の境界線である細胞膜を持っていますが(一部例外あり)、ウイルスは持っていません。$\rightarrow$これは言い換えれると、ウイルスは細胞構造を持っていないということになります。
  • 細菌から植物、動物でも生物はみんなDNAとRNAの両方持っていますが、ウイルスは通常どちらかしか持っていない。
  • 代謝系を持っておらず、自分の力で自己増殖ができない。$\rightarrow$これは、何かを食べて消化し、呼吸をしてエネルギー(ATPを作ったりしない)を得ていないし、細胞分裂したりして自分の力で増殖することもない(ただし他の生物の力を借りて増殖する)ということ。

という感じになります。

つまり、ウイルスは細菌ではなく細胞構造もないので、細菌には効く抗生物質もウイルスには効きません

また、ウイルスは生きておらず、死ぬこともないということを意味します。通常「死ぬ」とは言えないので不活性になると言ったりします。

ウイルスの大きさ

さてウイルスの大きさです。ウイルスは小さくて数十ナノメートル(nm)から、大きいものでは数百ナノメートルぐらいの大きさで、コロナウイルスは80〜100ナノメートル程。ちょっと大きめのウイルスという感じです。

ただ、これだとあまり大きさを実感できません。

1ナノメートルが10億分の1メートル$\Rightarrow$100万分の1ミリ。

\begin{array}{rllll} 1m(メートル) &= 1000mm(ミリメートル)&= 1000000μm(マイクロメートル)&= 1000000000nm(ナノメートル) \cr 1nm &= \frac{1}{1000}μm &= \frac{1}{1000000}mm &= \frac{1}{1000000000}m \cr \end{array}

水分子の大きさが0.38ナノメートルですからコロナウイルスは約水分子の300倍です。

赤色の光の波長が700ナノメートル前後なので、光の波長よりも小さいというわけです。だから当たり前ですが高価な光学顕微鏡でも見ることはできず、電子顕微鏡でしか見ることができません(このページの上にあるような、コロナウイルスに色がついているように描かれてるのは、それはあくまでもイラスト的なデザインです、光を当てて見ることができないわけですから、色はわかりません)。

まだピンとこなければ、人体細胞の直径は6マイクロメートル~25マイクロメートルです。例えば人の肝細胞は20マイクロメートルなので

\begin{array}{rl} &細胞を20μmとしたから\cr 20μm &= 20000nm\cr & つまり\cr 20000nm \div 100nm &= 200倍\cr \end{array}

ですから、コロナウイルスは人の細胞の$\frac{1}{200}$ということになります。つまり、下の図のようなイメージです。

細胞とコロナウイルス

ちなみに細菌はだいたい1マイクロメートルで、あの結核菌は長細いので、長さ2〜10マイクロメートル、幅0.3〜0.6マイクロメートルぐらいですから、ざっくり上の図の右下が結核菌です。

ウイルスの増殖

ウイルスは物質で生物ではないと言いましたが、似ていることがあります。それは、DNAとRNAの両方ではありませんが、どちらかを持っており増殖していくことです(といっても他人任せですが)。

ウイルスではない細胞分裂では、1つの細胞が文字通り分裂して2つの細胞になり、それらがそれぞれ同じことを繰り返していきます。つまり「1→2→4」というように増えていきます。

$y(個体数) = 2^{x(分裂回数 - 1)}$

これに対してウイルスは分裂せず、自分のクローンを侵入した細胞に作らせます。1つの細胞で1つの新しいウイルスを作るわけではなくて、$10^{5}$個が産生され感染細胞は死滅します。例えば5つのウイルスを1つの細胞で作成すると、自分自身以外の5つができるので「1→6→36」と増えていきます。5ではなくて、実際は$10^{5}$なので(ウイルスの種類によるでしょうが)、あまりにもすごい増殖速度と想像できます。

インフルエンザウイルスは、およそ8時間で100倍に増殖するといわれていおり、これはつまり、1つのウイルスが24時間で100万個になることを意味しています。

ウイルスの増殖 脚注1

ウイルスの種類

ウイスルの多くの種類があるのですが、ここでは深堀はしません。まずは基本的なところを押さえます。

下の図はMedical Tribuneからの引用ですが、これを参考に説明します。

  • 既述したように、ウイルスはDNAもしくはRNAのいずれかを持っていて、それぞれ「DNAウイルス」「RNAウイルス」と呼ばれていて、ウイルス全体を2分しています。
  • また、図中の「一本鎖/2本鎖」を無視すると、「DNAウイルス」「RNAウイルス」はそれぞれの中に「エンベロープあり」「エンベロープなし」があります。インフルエンザウイルスやコロナウイルスはエンベロープを持っていますが、時々流行るノロウイルスは持っていません。

ウイルスの種類

そして、新型コロナウイルスにもあるこのエンベロープが脂質を含んでいるので、石鹸で洗うとウイルスが不活性になるということは報道等で大いに知られるようになりました。

ウイルスの構造

前述のように、ウイルスの種類が色々あるので、ウイルスの構造はそれぞれ色々あります。ここでは代表的なエンベロープを持っているウイルスの構造を見ておきます。

ウイルスは、ウイルスの遺伝子と働く核酸(生物でもないウイルスの遺伝子とは矛盾していますが)とこれを保護するタンパク質で構成されるカプシドが基本単位です。下の図のように、これら2つを含めてヌクレオカプシドと言います(カプシドはカプゾマーという基本単位で構成されていますが、ここではスルーしておきましょう)。

そして、コロナウイルスはその周りにエンベロープという脂肪や糖を含むタンパク質でできています。コロナウイルスの特徴である突起(スパイク)がついており、これによって、ヒト細胞表面のタンパク質「ACE2(血圧調整の役割を果たしている)」に付着します。そしてACE2は化学変化を起こしてヒト細胞の細胞膜と新型コロナウイルスの外膜の融合を促して、新型コロナウイルスのRNAが細胞に侵入できるようにします。

コロナウイルスにとってこのスパイクは重要な働きをしています。

ウイルスの増殖 脚注2

以上です。

  1. 北里英郎・原和矢・中村正樹「ウイルス・細菌の図鑑」技術評論社、2016からの引用 

  2. 北里英郎・原和矢・中村正樹「ウイルス・細菌の図鑑」技術評論社、2016からの引用 

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坂井和郎